『あずかりやさん』大山淳子(著)あずけものに隠された思いと秘密

「あずかりやさん」
私には聞き覚えのない言葉です。

「あずかりやさん」とは、「あずかって」と言われたものをあずかるお店です。
あずかるものは、紙切れ1枚でも高級自転車でも1日100円。

「あずかりやさん」の店主は、心やさしい青年、桐島透(きりしまとおる)。

『あずかりやさん』の語り手は、のれんであったり、ガラスケースであったり、自転車であったりします。
彼らの目から見た「あずかりやさん」を訪れた客と店主とのやりとり、「あずけもの」に隠されたそれぞれの思いと秘密が語られていきます。

「あずけやさん」が存在していたら、私は何をあずけるだろうか。
考えてみるけれど、思いあたりません。

店主は本文の中で次のように言っています。

「人はみな、とは言いませんが、人それぞれに、あずかってほしいものってあるんですね。家族に見られたくないものとか、一時的に離れていたいものとか」
(本文より引用)

「あずけたいもの」が思いあたらないまま、「あずけたい」気持ちがわからないまま読み始めた本でした。

「あずけやさん」は、5つの話で構成されています。
 最初の話「あずかりやさん」の章で、語られたものが、2章以降で展開していきます。
また、それぞれの話で伏線がはられ、つながりをもちます。

最初に登場するお客様は、ランドセルを背負った女の子。
彼女があずかってほしかったものは、1枚の紙です。
あずかってほしい期間は、1週間。
あずかり賃は、1日100円ですので、1週間で700円になります。

小学生の女の子が、700円を払ってでも、あずかってほしい1枚の紙には、少女の必死な気持ちが隠されていました。

1週間後、1枚の紙を取りに再び「あずかりやさん」を訪れた彼女は、最初と全く違う表情を見せます。

「あずかりやさん」に1枚の紙を預けたことで、変わっていった彼女の人生。
もしかしたら、私にも、彼女にとっての「1枚の紙」があるのかもしれません。

「あずかりやさん」にあずかったものは、約束の期限を切れると、あずかったものは店主のものとなります。
それを利用して、100円だけ置いて粗大ごみを置いていってしまう客も存在します。

それでも、店主はすべてのものを1日100円であずかります。

『あずかりやさん』には、はっきりと秘密が解明されていないあずかりものもあります。
謎が解明されていないあずかりものを通して、あずけた人の人生を見てみるのもおもしろいのではないでしょうか。

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